Column



■『留学の心得』
掲載誌 :  ギター・マガジン 1997年7月号

 私自身、日本人の留学生としてバークリーに来てから、ちょうど10年になります。最初は学校のシステムやアメリカの生活に慣れること、まして英語が苦手だったのでとても苦労しました。でも、それを乗り越え、ひたすら自分を信じてやってきた甲斐があって、現在では講師として、また自分のバンド活動を通してアメリカならではの素晴らしい経験をすることができています。そんな私から、留学についてのポイントをいくつかアドバイスしようと思います。

 まずは、そのきっかけです。私の場合は10代の頃、チャーに憧れてギターを始めたのですが、その後ディープ・パープルなどのHR系を通って、ジェフ・ベックやラリー・カールトンなどのフュージョンを聴くようになりました。しかも同じ時期、B.Bキングなどのブルース、ジョー・パスなどのジャズ、E.W&Fなどのファンクも聴くようになり、結局は幅広いジャンルの音楽が好きになったのです。その結果、「これだけアメリカが好きなら、アメリカへ行こう」と思うようになったわけです。大学生のときにジャズを習っていた頃、納浩一さん(b)がバークリーに留学するという話を聴いて、彼からいろいろな情報を教えてもらいました。その後、デモ・テープをバークリーに送り、奨学金がもらえることになって、大学を辞め、アメリカでの生活費を稼ぐために2年間バイトをするようになったのです。つまり、私の場合はいろいろなトライをしてから留学を決意したわけですが、最近の傾向としては高校を卒業して即留学してくるというパターンが増えています。私にはそこまでの度胸も根性も無かったのですが、ここでちょっと考えてもらいたいのは、本当に "Are you ready?"ということなのです。確かにある意味では、早くスタートしたほうがいいという部分はありますが、教える側の立場としては『ちょっと経験が少ないな』とか、『もう少し日本で準備をしてきても良かったのに』と思える場合があるのです。バークリーという学校はとてもエキサイティングなところですが、全体的にペースが早いということを頭に入れておいて欲しいのです。

 そして何より留学にとって一番大事なことは、英語です。もちろんこれはバークリーに限ったことではありません。私も苦労したことですが、結論から言うとこれはもうやるしかありません。最近は、高校を卒業してすぐにボストンに来て、まず3ヶ月ほど英語学校に入って語学を勉強しながら音楽も学ぶという人もいます。これもひとつの方法といえるでしょう。アメリカでの生活に慣れるため、また学校の手続きをするために早めにこちらに来ることは、いいことだと思います。確かに日本の留学生もたくさん来ていますから、人によっては全然英語を話さないでどうにか生活できることもあります。英語を聴くのは授業中だけで、下宿に戻ると日本のビデオを見て日本の雑誌を読んで・・・。でもそれではあまり意味が無いと思います。私の場合も、最初の頃は英語ができなくてかなりプレッシャーがあったのですが、それでもアメリカ人と一緒にバンドをやりたいっていう夢がありましたから、極力英語を話そうとしたものです。たとえば、アメリカ人をルーム・メイトにするとか、そういう方法でイヤでも英語を話す習慣を身に付けていきました。

 ところで、日本人にとって英語が難しいのは、YES/NOがはっきり言えないことなんです。日本人には「遠慮する」とか「相手を傷つけない」という習慣があるためです。さらにアメリカでは、授業などで「何も質問をしないで静かにしている」というのは「興味が無い」と捉えられがちです。海外に留学するには、こうした習慣の違いも理解しておく必要があるでしょう。

 ボストンという街は、アメリカでは比較的安全なところだと思いますが、それでも決して日本ほど安全というわけでありません。ただ、これはアメリカに限らずですが、夜の一人歩きとか、危ないなと感じた場所には近づかないといった常識的なことを守っていれば間違いは無いでしょう。アメリカ人は結構フレンドリーなので、ちょっと話して親しくなると、すぐに「遊びに行こうよ」と誘われることが多いんです。そういうときに留学生は、やっぱりうれしくなってついていってしまいがちなんですけど、そこが実はドラッグ関係の場所だったりする・・・。やはり、常に警戒心というか緊張感は必要なことですね。

 いずれにしても、海外に留学したならば、とにかく練習を重ねること。そして英語力を身につけて生活をエンジョイしてください。英語ができるということは、授業を理解できるだけでなく、学校外での活動の幅が広くなるということですし、それができてこそ、留学の意味があるのだと思います。